弁護士コラム

2018.01.25更新

こんにちは!

池袋西口城北法律事務所の弁護士の結城です。今回は不貞行為の慰謝料請求をする・される場合に,注意していおきたい点についてお話したいと思います。

1 不貞行為の慰謝料請求をするための主な証拠

ア 動画

最近では,家庭用隠しカメラも安価にお買い求めできるようになり,例えば,自宅に隠しカメラを備え付け,配偶者と不貞相手方との不貞行為の様子の撮影をする方もいらっしゃいます。

イ 写真

配偶者と不貞相手方がラブホテルや一方の自宅に入っていく様子を収めた写真が考えられます。

普通のホテルに入って行った写真も,その時の状況やその他の証拠と合わせて,不貞行為を推認する証拠になり得ます。

まれに,一糸まとわぬ姿で写った配偶者と不貞相手方の写真が,携帯に残っていたりすることもあるので,それを証拠として提出することも考えられます。

ウ 録音

不貞行為の様子が録音されたものが考えられます。もっとも,裁判では,声質などについて争われる可能性もあり,他の証拠を用意しておいた方が無難ではないかと思います。

また,不貞行為を認める旨の録音も証拠になり得ます。そういう意味では,不貞行為をしてしまった配偶者や相手方は,録音されていないか否かといった点には気を配る必要があるといえるのかもしれません。

他方で,単に「愛している」,「●●にデートに行こう」といった内容だけでは不貞行為を認めるに足りません。

エ よくあるご質問

相手に内緒で写真を撮ったり,音声をとったりして,裁判になった時に証拠として提出できるのかという質問が良く出ます。

刑事訴訟とは異なり,民事訴訟では,原則として,証拠能力等に影響はありませんので,提出しても問題はありません。

もっとも,刑事法令に抵触するような方法(不貞相手方の住居に忍び込んで隠しカメラを設置した=住居侵入罪)や反社会的な方法で証拠を獲得しても,それは証拠として採用されないということも考えられます。
なお,証拠能力の問題とは別に,プライバシー侵害に基づく慰謝料を裁判上請求される余地はありますが,認められないか,認められても少額にとどまるのではないかと思います。

2 金額

私が不貞行為の慰謝料請求をするに際し,裁判例を調査した結果,以下のような要素があることが分かりました。

もっとも,色々な要素との関係で慰謝料額は決まってくるので,あくまで一例として参考にして下さい。

①婚姻期間
 裁判例では概ね3年以下の場合には慰謝料の減額要素となる。

②当事者の収入,社会的地位,学歴
 基本的には考慮されず。

③不貞行為開始時に婚姻関係が円満であったか否か
 最高裁平成8年3月26日⇒不貞行為時に既に婚姻関係が破綻していれば,不法行為は成立しない。
 もっとも,裁判所は「破綻」を容易には認めず,原則不法行為の成立を認め,不貞行為当時の夫婦の関係性を減額事由とする。

④不貞配偶者と不貞相手方との責任の軽重
 ・どちらの責任も差がないとする裁判例と,不貞配偶者の責任の方が重い(不貞相手方への認容額を減額する)と見る裁判例とに分かれている。

⑤不貞行為の期間・回数・内容等
 反映される。
・不貞行為期間
数か月程度であれば短期間として慰謝料の減額事由としている。他方で,半年でも長期間とみている事例もある。
不貞行為期間が長くても,被害者がそれを知った時期によって精神的苦痛の度合いが異なる

・不貞行為の回数
東京地裁平成25年3月21日 1回
⇒請求額1000万円に対して80万円
(婚姻期間13年,不貞期間4か月,別居)

東京地裁平成20年10月3日 3回⇒請求額250万円に対して50万円
(婚姻期間約2年半,不貞期間2年)

・不貞行為の態様
  訴訟係属後も続いている場合や止めるように申入れがあるのに継続する場合には増額事由になる。

⑥子の存在
 未成熟子がいる場合⇒増額事由

⑦不貞行為が発覚した後の夫婦の関係性
・被害者が不貞配偶者を許した(宥恕した)場合はもちろんのこと,そうでなくても,被害者が不貞配偶者に対して慰謝料を請求する意思を示していなかったり,被害者が不貞配偶者に責任があると認めていない場合であっても,慰謝料の減額事由として考慮している裁判例が存在する。

東京地裁平成19年2月8日(慰謝料120万円)
「被害者は,現在においても不貞配偶者を完全に許すという気持ちになれず,不貞配偶者との間に生じたしこりが残ったままであるものの,不貞相手方との関係を告白した不貞配偶者を宥恕し,長女と共に,一つ屋根の下で家計を共にし,従前のとおり,夫婦生活および家族生活を送っている。かかる事情は,不貞相手方が賠償すべき被害者の精神的損害の額を認定するに当たって斟酌(考慮)しなければならない事情である」

東京地裁平成24年11月22日(慰謝料150万円,弁護士費用15万円)
「被害者が不貞配偶者に対する請求をする意思はないことは,慰謝料の算定に当たり,考慮しなければならない事情である」‥明確に不貞配偶者を許すという意思を示していないが,不貞配偶者に対する請求する意思がないという事実をもって慰謝料の減額要素としている。

東京地裁平成25年4月11日(慰謝料150万円,弁護士費用15万円)
「被害者が未だに不貞配偶者に責任があるとは認めていない」として,慰謝料の減額事由としている。

※不貞相手方に,慰謝料請求をする場合に,不貞配偶者と別居や離婚に至ってなくても,それを積極的に知らせない方がよい。

⑧婚姻関係が悪化した程度
不貞行為の前の婚姻関係の状態と不貞行為の後のそれとの落差が精神的苦痛である。


東京地裁平成16年1月28日「経済的側面もあってか,現在も離婚及び別居をしていないことは,高額な慰謝料額を算定するには消極要素とせざるを得ない。」(認容額250万円)

東京地裁平成19年9月28日 交際期間2~3ヶ月の短期間,婚姻生活は未だ破綻していない。(認容額120万円)

東京地裁平成21年7月9日 平成16年4月末頃から同年10月初め頃までの間,1ヶ月2回ないし3回。不貞行為の態様等の諸事情,不貞相手方が真摯に反省している 離婚には至っていない 請求額400万円に対して150万円

東京地裁平成22年6月10日 不貞行為発覚後も同居しており,婚姻関係は破綻していないことのほか,…継続期間など本件に現れた諸事情に照らすと,精神的苦痛に対する慰謝料額は100万円

⑨不貞相手方からの被害者への謝罪
 謝罪があると減額事由になるし,逆になければ増額事由になる。

⑩被害者の不貞相手方に対する言動の違法性
 反訴請求がなされていれば認容されうるし,されていない場合でも減額事由になる。

・留守番電話への録音
 不貞相手方から被害者への反訴請求認容(慰謝料50万円)

・大量のFAX送信
 慰謝料の減額事由

・携帯電話への不穏当なメッセージ
 慰謝料5万円

・不穏当な内容のはがきの送付
 慰謝料50万円

明確な証拠に基づかずになされた不貞相手方への通知
 明確な証拠がないにもかかわらず,代理人弁護士を通じて不貞相手方が不貞配偶者と不貞行為をしたなどと告げて,不貞相手方に対して損害賠償を求め,これに応じなければ不貞相手方の勤務先に通告するといい,その後,実際に不貞相手方の勤務先にその旨通告したため,不貞相手方が退職を余儀なくされた。
  ⇒退職を余儀なくされたことに伴う逸失利益として6か月分の給与(145万円)と慰謝料30万円

・勤務先への電話
 プライバシー侵害等として慰謝料10万円

・張り込み,探偵会社を雇った調査,勤務先の訪問
 減額事由とはならないとする裁判例御あるが,勤務先の訪問はリスクがありそう。

・被害者の不貞相手方の勤務先に対する対応
 被害者が不貞相手方の勤務先に対して使用者責任を問うことは不可能。
 他方,就業規則には「勤務中は職務に専念し,みだりに勤務の場所を離れないこと」等の職務専念義務が規定されていることが多い。また,社内不倫禁止規定を置いている会社もあるかもしれない。
 ⇒とはいえ,被害者が,不貞行為の有無を調査してほしい旨会社に対して申入れすることについては,リスクもある。

 

投稿者: 弁護士 結城祐