弁護士コラム

2018.02.01更新

池袋の城北法律事務所の弁護士の結城祐(ゆうきたすく)です。

私の顧問先の一つに土建組合があるため,弁護士になってから建築請負に関する事件を数多く受任してきました。

その中でも,多く寄せられる相談が以下の3つです。

①請負代金の未払いと請負代金額の争い

②建築瑕疵

今回は,①についてお話したいと思います。

①の争いは,注文主との間で口頭で請負代金額を伝えて,工事完成後,注文主に請負代金を請求しても支払われないため,請負代金訴訟を提訴した。そうしたところ,請負人が請求するような請負代金額の合意がなかったと反論されるというのが,典型例です。

契約は,当事者間の意思表示の合致によって決まるものですが,請負契約に関し請負代金額についても意思表示の合致が必要になります。

契約は口頭でも成立しますが,訴訟においては書面,とりわけ請負契約書が重視されます。

ところが,中小企業間の請負契約においては契約書が交わされることは少なく,口頭で始まり工,事が完成すれば請求書を出し支払いがなされるということがよく行われています。

これで問題が起きなければいいのですが,請負代金の未払いが起こり提訴せざるを得なくなった場合には,請負代金を請求する請負人側に請負代金額の立証責任が課されることになるので,契約書がない場合には,請負人側が,口頭で,これこれの請負代金額については注文主も合意していたと主張しても,それが通る可能性は低くなります。

もっとも,口頭で伝えたに過ぎず契約書がない場合にあっても,請負人が当該工事を完成させたのであれば,下記の条文を意識してか,相手方の代理人弁護士からも代金を全く払わないという反論は通常なされません。

商法第512条(報酬請求権)     商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは,相当な報酬を請求することができる。

商法第4条1項(定義)        この法律において「商人」とは,自己の名をもって商行為することを業とする者をいう。

商法第502条1項(営業的商行為)  次に掲げる行為は,営業としてするときは,商行為とする。

        5号         作業又は労務の請負 

会社法第5条(商行為)        会社がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は,商行為とする,

すなわち,請負人が(株式)会社の場合のみならず(会社法第5条),個人である場合にも(商法第4条1項,第502条1項5号),請負工事を完成させたのであれば,相当な報酬を請求する権利があることになります。

ただし,請求する請負代金額が報酬として相当であることの立証責任も請負人にあると考えられます。

しかしながら,中小企業間の請負契約において,1人工当たりの人工代や工事の単価等が明確に定義されていることは少なく,経験や伝承などによって金額が決められていることがあるため,請求する請負代金額が報酬として相当であることを立証することも一般的に非常に困難であることが多いといえます。

この点に関し,立証を軽減するとの観点から参考になる裁判例を挙げます。

札幌地判平成22年9月15日平成20年(ワ)第2016号報酬等請求事件(金融商事判例1352号13頁)

【事案の概要】

原告Xが,被告Yか請け負ったサイト構築業務に係る未払いの製作料金5326万7865円等の支払いを求めたが,被告Yにおいて,本件サイトがオープンする直前になって原告Xが提出した見積書では,修正作業等についてすべて追加料金の計算がされているが,当初合意した2000万円の概算金額とはかけ離れた金額が記載されており,被告Yが了承できるような金額ではなく,その製作料金として当事者間で合意したのは概算金額の2000万円であって,被告Yはこれを既払であると反論して,原告Xの請求を争った事案である。

【理由の要旨】

①本件サイト構築業務における個別内容が確定するごとに,それに沿った原告Xの見積書が被告Yに対してそれぞれ提出され,さらに本件サイト構築業務が確定した時点で本件一括提出が行われたこと
②被告Yは,平成18年12月21日頃,本件サイト構築業務の概算見積として合計6000万円であると記載された本件確認書の送付を受けたこと
及び
③被告Yは,被告Yが原告Xから本件サイトの引渡しを受けるまで,各見積書及び本件確認書記載の金額に不満を述べることはあったとしても,原告Xに対して,具体的な金額の交渉を求め,又は本件サイト構築業務の中止を求めることはなかったことが認められる。
被告Yは,遅くとも被告Yが本件サイトの引渡しを受け,本件サイトを公開した平成19年7月25日までに,本件サイト契約における本件サイト構築業務の個別の業務の代金額は,原告Xから被告Yに最後に提出された各見積書記載の金額とすることについて,黙示の同意を与えていたといわざるをえない。
そうすると,本件サイト契約における本件サイト構築業務の代金額は,合計7500万円であると認められ,被告Yはこれまでに合計2500万円を支払っているから,被告Yの未払代金額は5000万円である。

この札幌地判平成22年9月15日の事案は,本件サイト構築業務における個別内容(修正作業等)が確定するごとに追加料金が発生しているという特殊性はありますが,原告Xが見積書を逐一発行し続け,本件サイト構築業務が確定した時点で本件一括提出がなされ,それ以後被告Yから具体的な金額交渉がなければ,見積書に記載の金額について明治の合意がなくても請負代金額の黙示の合意があったと認定されているという点で重要な判例だと思います。

事案ごとの違いはあれど,見積書を注文主に少なくとも提出しておくことは,請負代金額のトラブル防止に役立つと思われます。

トラブルの防止に最も役立つのは契約書の作成(締結)ですが,見積書もしっかり提出しておくことでもトラブルを一定程度防ぐことには役立ちます。
そして,見積書の作成の際には,一人工当たりの人工代や,作業の単価についても明示しておくことが必要です。

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投稿者: 弁護士 結城祐